
法律の専門家が日々直面する膨大な情報の海。その中から必要な法令や判例を探し出し、正確な判断を下すことは、時間と労力を要する大変な作業です。
特に近年、企業の法務部門や法律事務所では人手不足が深刻化し、業務量の増加と相まって、効率的な業務遂行が求められています。
そんな中、弁護士ドットコム株式会社が2025年5月23日から提供を開始する「Legal Brain エージェント」は、法務業務に特化したAIエージェントとして注目を集めています。
このサービスは、自然な言葉での質問に対して、関連する法令や判例、専門書籍などから的確な情報を提供するリーガルリサーチ機能を搭載。
さらに、独自開発のデータベース「LegalGraph」を活用し、信頼性の高い情報源を提示することで、専門家の調査業務を大幅に効率化します。
AI技術が法務の現場にどのような変革をもたらすのか、その可能性を探ります。
法務の現場で深刻化する“人手不足”と“調査業務の負担”
企業の法務部門や法律事務所では、ここ数年、深刻な人材不足と業務の複雑化が続いています。特に業務の中でも大きな負担となっているのが「リーガルリサーチ」と呼ばれる調査業務です。これは、関係する法律や判例、ガイドライン、専門書籍などを横断的に調べる必要があり、高度な知識と多くの時間が求められます。
実際、2024年に実施された調査では、法務担当者の半数以上が「人手が足りない」「業務量が多い」といった課題を抱えていることが明らかになりました。こうした背景から、法務の現場ではAIなどの先端技術を活用して業務を効率化しようとする動きが加速しています。
そんな中で登場したのが、弁護士ドットコムが開発した法務特化型のAIエージェント「Legal Brain エージェント」です。このサービスは、単なるツールではなく、まるで法務チームの一員として調査業務を支える存在になることを目指して設計されています。
法務業務を支える“もう一人のチームメンバー”として

2025年5月23日から提供が始まる「Legal Brain エージェント」は、法務業務に特化して開発されたAIエージェントです。提供元は「弁護士ドットコム株式会社」で、法律相談サイトや電子契約サービスなど、法務関連のデジタルサービスを手がけてきた企業です。
このエージェントは、複雑な調査業務を代行・支援する「リーガルリサーチ機能」を中心に設計されています。使い方はシンプルで、調べたいことを自然な文章で入力するだけ。AIがその意図を正確にくみ取り、関連する法令や判例、専門書などから必要な情報を整理して提示してくれます。
開発の背景にあるのは、単なる効率化ではなく、専門家が本来注力すべき「より付加価値の高い業務」に集中できる環境を整えるという発想です。まるで法務チームの一員のように、日々の業務を支える存在になることが、このエージェントの目指す役割です。
専門家の調査を支える4つの機能

1.文章で聞けば、AIが答える ― 自然な言葉でリサーチ
専門的な検索キーワードを使わずとも、日常的な言葉での質問に対応します。たとえば「こういうケースでは何の法律が関係する?」と入力すれば、AIがその意図を正しく読み取り、関連する情報を整理して提示。調査にかかる時間を短縮し、専門家の迅速な分析や判断をサポートします。
2.あらゆる法情報をひとつに ― 巨大な独自データベースを活用
法令や判例、専門書籍、ガイドライン、さらには「Business Lawyers」の解説記事まで、膨大な文献を蓄積した独自のリーガルデータベース「LegalGraph」を活用。情報は単に蓄積されているだけでなく、AIが正確に理解できるように構造化されており、複数の情報源を横断して効率的に検索・分析が可能です。このデータベースは現在、特許出願中です。
3.調査の“出どころ”も明快に ― 根拠を明示した回答
AIが出す答えには、必ずその根拠となる法令、判例、書籍、ガイドラインなどのリンクが付けられています。これにより、ユーザー自身が情報の正しさや妥当性を確認でき、実務における信頼性を高めています。
4.複雑な問題もひと目で整理 ― 論点を構造化して表示
質問に対して、AIが関連する法的な論点を箇条書きで整理し、全体像を構造的に提示します。これは、法務実務に精通した専門チームによる評価・監修を踏まえて実装されており、複雑な問題を迅速に把握する助けとなります。
法務の未来へ向けて、進化を続けるAIエージェント

今回のリーガルリサーチ機能の提供を皮切りに、さらなる機能拡張が予定されています。すでに、ユーザーの声を取り入れながら、より多角的に法務業務を支援する仕組みを検討中とのことです。
今後は、契約書の作成補助や法的リスクの自動抽出、さらには判例との類似性分析など、実務で必要とされる幅広い領域への対応も期待されています。AI技術の進化と、関連する法規制の動向を見極めながら、法務の現場に最適化されたツールとしての完成度を高めていく方針です。
単なる検索ツールにとどまらず、法務部門にとっての“考えるパートナー”として、AIがどこまで寄り添えるのか。これからのアップデートにも注目が集まります。
法務に寄り添う“もう一人の仲間”を目指して
「Legal Brain エージェント」は、ただの効率化ツールではありません。弁護士ドットコムの代表であり弁護士でもある元榮太一郎氏は、このAIが“法務チームの一員”のように働く存在であることを強調しています。
法務の現場では今、人手不足と業務の複雑化という二重の課題に直面しており、限られたリソースの中で質の高い業務を求められる場面が増えています。こうした状況において、AIが膨大な情報を整理し、必要な情報をスピーディーに導き出すことで、人の判断力や創造力を支える役割を果たします。このような思いが、「Legal Brain エージェント」の開発には込められています。
「テクノロジーと法律の力で、すべての人が前に進める社会をつくる」。このビジョンの実現に向け、法務の現場に新たな選択肢を提示する一歩となりそうです。
AIが変える、法務の“あたりまえ”
法律に関する知識は膨大で複雑です。これまで、それを扱う法務の仕事は、専門性の高さゆえに属人化しやすく、また時間と労力を要するものでした。
「Legal Brain エージェント」は、そうした業務の一部をAIが担うことで、専門家が判断や戦略立案といった本来注力すべき業務に、より多くの時間を使える環境づくりを目指しています。人とAIが役割を分担し、それぞれの強みを活かして補い合う。そんな未来が、現実のものとなりつつあります。
今後さらに進化していくこのサービスが、法務の世界にどのような変化をもたらすのか。その動向に引き続き注目していきたいところです。
弁護士ドットコム株式会社について
「Legal Brain エージェント」を提供する弁護士ドットコム株式会社は、法律や契約に関する専門サービスを展開するテック企業です。「弁護士ドットコム」「税理士ドットコム」などの専門家ポータルや、電子契約サービス「クラウドサイン」などを通じて、法務のデジタル化を推進しています。2005年に設立され、現在は東京証券取引所グロース市場に上場しています。