
「うどん県」で知られる香川県・琴平町。この町で今、ちょっとユニークな地方創生の実証実験が始まろうとしています。タッグを組んだのは、Web3.0技術を活用して地域共創を目指す「共創DAO」と、名物“うどんタクシー®”で観光の現場を支えてきた「琴平バス株式会社」。彼らが新たに立ち上げたのは、昼・夜・未来の琴平をテーマにした4つの体験プログラムです。
うどん打ちやe-bikeでの食べ歩き、地元のキーパーソンとのバルホッピング、さらには新名物「讃岐おでん」を開発する参加型プロジェクトまで。いずれも単なる観光ではなく、地域の人とつながり、風土に深く入り込む体験ばかりです。しかも、参加者はLINEで登録するだけで、Cardanoブロックチェーンに刻まれる分散型ID(DID)を取得でき、地域貢献の証明となる「デジタル参加証明」まで発行されるという仕掛けつき。
ブロックチェーンの最先端技術と、地に足のついた地域体験。この一見相反するような2つの要素が、琴平という小さな町で見事に融合を始めています。今、“観光”という言葉の意味が、静かに、そして確実に変わろうとしています。
「地方創生×Web3」実証プロジェクト、琴平で始動
地方創生の文脈において、これまでになかった形のプロジェクトが香川県琴平町で動き出しています。その中心にいるのが、Web3.0技術を通じて地域との新たな関係構築を目指す「共創DAO」と、地域に根ざした観光事業で知られる「琴平バス株式会社」です。二者が協力し、香川県全域を舞台にした地方創生プロジェクト「NEO四国88祭(ねおしこくはちはちさい)」の一環として、琴平町を舞台にした4つの体験型プログラムを打ち出しました。
この「NEO四国88祭」は、世界的なブロックチェーンプラットフォーム「Cardano(カルダノ)」の資金支援を受けて展開される取り組みで、テクノロジーと地域文化の融合による新しい共創モデルを実証する試みです。琴平町では、「昼」「夜」「未来」という時間軸をテーマにしたプログラムが企画され、町の魅力を多角的に体験しながら、参加者がWeb3技術を自然に体感できるよう設計されています。
共創DAOにとっても、琴平バスにとっても、これは単なる観光商品開発ではありません。観光体験を通じて“地域と共に生きる個人”を育て、参加者一人ひとりの貢献がブロックチェーン上に記録されていくという点で、従来型の地域振興とは一線を画すアプローチです。ローカルの文脈とグローバル技術を接続し、持続可能な「関係人口」を生み出そうとするこの試みは、今後の地域活性の新たなヒントとなりそうです。
観光を“共創”に変える、4つの体験プログラム

今回の取り組みの魅力は、単にWeb3技術を取り入れた観光施策にとどまらず、実際に“人と地域が交わる現場”が用意されている点にあります。それが、琴平町で開催される4つの体験プログラムです。いずれも、観光客が“見る”“買う”だけでなく、“参加し、関わる”ことを重視した設計が特徴です。
まずは、琴平名物「うどん」を軸にした2つの昼間のプログラムから。1つ目は、YouTubeでも人気の“うどんタクシー”ドライバー・格さんが案内する讃岐うどんスペシャルツアー。名店巡りに加え、「中野うどん学校」での打ち体験付きで、食べて・学んで・作って楽しめる五感型の食文化体験です。2つ目は、e-bike(電動アシスト付き自転車)で穴場のうどん店を巡るサイクリングツアー。坂道も楽に登れるe-bikeを活かし、ガイドブックに載らない本物の味を自分の足で探しに行ける、新しい“うどんの旅”が楽しめます。

夜の部では、琴平の“酔いどれ社長”と共に町の飲み屋をはしごするバルホッピングツアーが登場。餃子、焼き鳥、クラフトビール、スナックと続く4軒の店を巡りながら、地域のキーパーソンたちと語り合うこの体験は、観光以上に“人に出会う”ことが目的のようにも感じられます。「地方創生は酔った勢いから始まる」という言葉が、案外本音を突いているかもしれません。

そして最後に、未来を見据えた「讃岐おでん開発プロジェクト」。毎月22日に開かれるこの集いでは、地元の人も観光客も一緒になって新たなご当地メニューを考案していきます。味や具材はもちろん、商品化や店舗展開までを視野に入れたアイデア交換が行われ、まさに“共創”の現場を体験することができます。
いずれのプログラムにも共通するのは、地域に一方通行で触れるのではなく、自らの関わりが“まちの物語”の一部として記録されていくという点です。食べて終わりではなく、出会い、語り、次へつなげる。そんな深い観光体験が、琴平には用意されています。
プログラムの詳細・お申し込みはこちら
https://www.neo88.app/activities
LINEで参加、ブロックチェーンで記録される新しい旅
本取り組みがユニークなのは、地元ならではの体験プログラムに加え、参加の仕組みにもWeb3.0の技術が自然に組み込まれている点です。特別な知識やウォレットは不要。参加者は「共創DAO」が開発したLINEアプリ「共創アプリ」から申し込むだけで、Cardano(カルダノ)ブロックチェーンを基盤とした分散型ID(DID)が自動的に生成されます。
このDIDは、本人確認や所有権証明などに活用できる技術であり、日本でも2024年に重点政策として取り上げられるなど、今後の普及が期待されています。参加者は体験に参加するごとに、ブロックチェーン上に証明可能な「デジタル参加証明(VC:Verifiable Credential)」を受け取ることができます。これは改ざんが不可能で、まさに“デジタルなお土産”とも言える記録です。
さらにユニークなのが、参加によって「貢献ポイント」が付与され、そのやりとりすべてがブロックチェーン上に記録されるという仕組み。これにより、個人の地域への関わりや貢献が透明性高く可視化され、地域活動に対するインセンティブのあり方に新たな選択肢が生まれます。
技術的な用語が並ぶと一見難しく感じられるかもしれませんが、参加者にとってのハードルは非常に低く、LINEで登録するだけという簡単な手続きで新たな体験が始まります。Web3.0を意識せずともその恩恵を自然と受け取れる設計こそが、今回のプロジェクトの巧みな点であり、未来の観光モデルとしての可能性を大きく広げています。
関わることが価値になる、“新しい観光”のかたち
観光とは、単に名所を巡ることではなく、「地域と関わること」そのものが価値になる時代へと変わりつつあります。琴平町で始まった今回の取り組みは、そうした新しい観光のかたちを体現するひとつの実験とも言えるでしょう。
地域に暮らす人々と出会い、語り合い、未来を一緒に考える。そのプロセスが、デジタル上に証として残り、参加者の“旅の足跡”として積み重なっていく。そこには、単なる消費ではなく、「共に場をつくる」という意識が育まれています。
ブロックチェーンやWeb3.0といった先端技術も、難解な仕組みとしてではなく、人と人、人と地域をつなぐ“橋”として自然に機能していました。琴平から始まったこの挑戦が、今後ほかの地域へと波及し、地方創生の新たな形を広げていくことに期待が高まります。観光の本質が、静かに、しかし確かに変わり始めています。