
電車に乗るとき、切符を買ったりICカードにチャージしたりと、ちょっとした手間を感じたことはないでしょうか。そんな日常の「当たり前」に、静かに変革をもたらしているサービスがあります。スマートフォンで事前に購入した乗車券を表示し、QRコードを改札にかざすだけでスムーズに通過できる「Q SKIP(キュースキップ)」という仕組みです。これは東急と東急電鉄が共同で開発・運営しているデジタルチケットサービスで、これまでの鉄道利用のあり方を大きく変える可能性を秘めています。
そして今回、この「Q SKIP」が、技術的な完成度と社会実装に向けた先進的な取り組みが評価され、「テクニカルディレクションアワード2025」のデジタルサービス/プロダクト部門で金賞を受賞しました。鉄道サービスとしてこの賞の金賞を受けたのは初めてとのこと。交通とデジタルを掛け合わせた実用的な取り組みが、高く評価されたかたちです。
スマホ一つで改札を通過できるという体験は、今はまだ新鮮に感じられますが、近い将来には都市生活の“当たり前”になっていくかもしれません。今回の受賞は、そんな未来の兆しを感じさせてくれます。
「Q SKIP」が金賞受賞という快挙

スマートフォンでQRコードをかざすだけで改札を通過できる「Q SKIP(キュースキップ)」が、技術的な完成度の高さを評価され、「テクニカルディレクションアワード2025」で金賞を受賞しました。鉄道業界からこの賞の金賞を受けるのは初めてのことです。
このアワードは、アイデアの実現に必要な技術的な設計力や開発体制を評価するもので、今年は152件の応募の中から「Q SKIP」がデジタルサービス/プロダクト部門で唯一選ばれました。改札機とのスムーズな連携や高いセキュリティ、多様な交通手段への対応などが評価され、今後の都市インフラの一例としても注目されています。
Q SKIPとは?仕組みと特徴

「Q SKIP」は、東急と東急電鉄が提供するスマートフォン専用の乗車サービスです。事前にネットで乗車券を購入し、スマホに表示されたQRコードを使って改札を通過できます。
券売機に並ばずに利用できる点が特徴で、1日乗り放題のチケットやレジャー施設とのセット券なども展開されています。さらに、東急線アプリとの連携により、購入から利用までがよりスムーズになり、都市型の新しい移動体験を支えるサービスとして進化を続けています。
スピードと柔軟性を両立した開発体制

「Q SKIP」の開発では、従来の鉄道業界にはあまり見られなかったアジャイル開発の手法が導入されています。これは、計画通りに進めるだけでなく、利用者の反応や状況の変化に応じて柔軟に仕様を見直しながら進める開発スタイルです。
東急のDX組織「URBAN HACKS」が中心となり、内製で開発を進めたことで、素早いリリースと改善が可能になりました。サービス開始当初はエリアや機能を絞ってスタートし、仮説検証とフィードバックを重ねることで、実用性と利便性を高めています。
こうした開発姿勢が、鉄道というインフラ領域においても新たな価値を生み出す好例として、アワードでの高い評価につながったと言えます。
開発を支えるのは東急のDX組織「URBAN HACKS」

「Q SKIP」の開発を担ったのは、東急が設立したDX特別組織「URBAN HACKS(アーバンハックス)」です。2021年に立ち上げられたこの組織には、エンジニアやデザイナーなど100名を超える専門人材が在籍し、テクノロジーの力で街のあり方そのものを進化させることを目指しています。
これまでに交通、生活、リテール、ホテル、不動産などさまざまな領域でアプリやWebサービスを開発し、顧客体験の向上に取り組んできました。「Q SKIP」も、そうした実績と知見の積み重ねの上に生まれたサービスのひとつです。
社内に開発チームを持ち、自社で企画から実装までを進められる体制があるからこそ、スピード感と柔軟性を両立したサービス提供が可能になっています。
都市型DXとして広がる可能性

「Q SKIP」は、単にデジタルで乗車できる便利な仕組みというだけではありません。今後は、移動・購買・体験を一体化させた都市生活のインフラとして、さらなる進化が期待されています。
その背景には、東急グループ全体で進められている「リアルとデジタルの融合によるまちづくり」があります。2025年5月に発行された「DXレポート」でも、日常生活にテクノロジーを取り入れ、顧客の体験価値を高めていく方針が示されています。
また、東急線の乗車などでポイントが貯まる「TOQ COIN」など、他のサービスとの連携も進んでおり、アプリを軸にしたサービスの統合も進行中です。こうした仕組みが整えば、乗車だけでなく地域の施設利用や買い物なども一体化された体験へとつながっていく可能性があります。
Q SKIPは、都市型のDXを具体的な形で体現する事例として、他の鉄道会社や自治体にとっても参考になる取り組みと言えるでしょう。
テクノロジーが変える移動体験
駅での切符購入やICカードのチャージといった、これまで当たり前だった行動が、スマートフォン一つで完結する時代が着実に近づいています。「Q SKIP」は、その象徴ともいえる存在です。
技術力とスピードを兼ね備えた開発体制、そして日常の移動をより快適にするユーザー視点の設計が、多くの共感と評価を集めました。鉄道サービスとして初めて、テクニカルディレクションアワードの金賞を受賞したという事実は、その価値を裏付けるものです。
移動のハードルが下がることで、出かけるきっかけが増え、街の活気も生まれていく。「Q SKIP」は、そんな都市の未来を形づくる一歩として、今後も注目されていくでしょう。