
街を歩いていると、広場や公園は休憩したり待ち合わせたりする場所として目に映ります。しかし、デジタル技術を重ねることで、いつもの風景が作品づくりの舞台へと変わるかもしれません。現実の空間に文字や絵を表示するAR(拡張現実)は、鑑賞するだけでなく、その場にいる人が表現へ加わる手段としても活用が広がっています。自分の描いた線が誰かの表現と重なり、街の中に一つの作品が生まれていく体験は、公共空間の新しい楽しみ方を感じさせます。
一般社団法人渋谷未来デザインは、KDDI株式会社の協力のもと、2026年7月15日に渋谷区立宮下公園(MIYASHITA PARK)で参加型XRアートイベント「SHIBUYA XR ART PARK ― ミリ波×AR共創実証実験 in MIYASHITA PARK ―」を開催しました。アーティストやデザインを学ぶ学生、一般来場者が、同じAR空間を共有しながら作品をつくる試みです。
渋谷の広場を一枚のキャンバスに変えた共創体験

イベント当日は最高気温が35℃を超える暑さとなりましたが、約30人が参加しました。会場となったのは、MIYASHITA PARK北側芝生ひろばです。広場にあるアーチをAR上の巨大なキャンバスに見立て、アーティストの森田学さんと東京デザインプレックス研究所の学生がライブペインティングを行いました。
一般来場者もスマートフォンを使い、同じAR空間へ自由に描画しました。プロのアーティストや学生の表現を眺めるだけではなく、その場に居合わせた人も一緒に作品づくりへ参加できることが、このイベントの特徴です。
現実の建物や風景を背景に、参加者が描いた色や形がリアルタイムで加わっていきました。それぞれの表現が重なり、一つの作品へ変化していく様子は、完成品を鑑賞する従来の展示とは異なる、ライブ感のあるアート体験になったようです。
多人数の創作を支えた5Gミリ波とXR技術

参加者が描いたARコンテンツはクラウド上でリアルタイムに統合され、VPS(Visual Positioning System)を使って現実空間の決まった位置へ高精度に固定されました。VPSは、カメラに映った周囲の風景を手掛かりに端末の位置や向きを把握し、デジタルコンテンツを現実の場所へ重ねる技術です。
さらに、KDDIが推進する5Gミリ波の高速・大容量・低遅延通信を活用し、更新され続けるARキャンバスを複数の端末へ配信しました。これにより、多くの参加者が同じ作品をほぼ同時に共有し、制作と鑑賞の両方を楽しめる環境がつくられました。
今回の催しは、渋谷未来デザインが進める「Shibuya Playground」の一環であると同時に、5Gミリ波の活用方法を検証する実証実験でもあります。スポーツやカルチャー、テクノロジーを組み合わせ、公共空間を誰もが参加できる創造の場へ変えていく試みとなりました。
「また体験したい」が100%、参加者の声に表れた期待

イベント終了後に一般参加者を対象として行われたアンケートでは、ARペイント体験の満足度について、87.5%が5段階評価の「4」以上と回答しました。
「このようなARペイント体験が常設されていたら行ってみたい」「今後も同様のAR体験に参加したい」「AR・XRを楽しむための通信性能を重視したい」という3項目では、いずれも100%が「4」以上を選びました。また、「友人や家族と一緒に体験したい」は87.5%、「複数人で同じAR空間に描き、作品を共有する体験が面白かった」は75%が「4」以上となっています。
回答者の人数や構成を踏まえて結果を見る必要はありますが、鑑賞者自身が創作へ参加できるXR体験に対し、好意的な反応が集まったことが分かります。通信性能に関する回答からは、複数人で同じ空間を共有する際に、映像や描画が滑らかに反映されることも体験価値を左右する要素といえそうです。
共創の可能性を語った参加者の声
イベントに参加したアーティストや学生、関係者からは、AR空間で一つの作品をつくる面白さや、公共空間と高速通信を組み合わせた表現の可能性について、次のようなコメントが寄せられました。
森田学(アーティスト)

AR空間でライブペイントを行うのは初めての体験でしたが、自分だけでなく学生や来場者の作品がリアルタイムで一つの作品へ重なり、空間そのものが変化していく様子に大きな可能性を感じました。公共空間だからこそ生まれるライブ感や偶発的な表現があり、今後さらに進化することで、新しいアート体験として多くの人に楽しんでもらえると期待しています。
東京デザインプレックス研究所 学生

渋谷の空をキャンバスに作品を描く体験はとても新鮮で、自分の作品だけでなく参加者全員の表現がリアルタイムで重なり、一つの作品になっていく過程が印象的でした。友人と会話をしながら一緒に描く楽しさもあり、ライブ会場やスポーツイベント、夜空など、さまざまな場所でも体験してみたいと思いました。
東京デザインプレックス研究所 担任
新しいデバイスや表現方法を楽しみながら積極的に取り組み、学生たちにとって大きな学びの機会になったと感じています。渋谷の公共空間や、高速通信を活用して何ができるかをイメージしながら取り組んだようで、この経験をきっかけに、ARを活用した表現やクリエイティブへの挑戦がさらに広がることを期待しています。
KDDI株式会社 担当者
今回の実証では、5Gミリ波とXR技術を組み合わせることで、多くの参加者がリアルタイムに一つのAR作品を共創する新しい都市体験を実現しました。通信インフラが人と人、人と街をつなぐ基盤となる可能性を確認するとともに、今後も公共空間におけるXRや新たなコミュニケーション体験の創出に取り組んでまいります。
技術と表現がひらく公共空間の新しい使い方
今回の取り組みで印象的なのは、XRや5Gミリ波が目立つ演出のためだけではなく、立場の異なる人々が同じ作品をつくるための土台として使われたことです。アーティスト、学生、来場者の表現が一つの空間へ重なったことで、公園は過ごす場所から、創作や交流が生まれる場所へと一時的に姿を変えました。
一方、こうした体験を常設したり、より多くの人が参加できる形へ広げたりするには、操作の分かりやすさや通信環境、安全な利用方法なども大切になります。渋谷未来デザインは今後もKDDIなどのパートナーと連携し、XR・AI・通信技術を使った都市体験の社会実装を進める方針です。街の景色を大きく変えなくても、デジタル表現を重ねることで人と人、人と都市をつなげられるのか。今回の実証は、公共空間の可能性を身近に考える一例になったといえそうです。