私たちの生活に少しずつ馴染んできた「AI(人工知能)」ですが、その進化が私たちの働き方や日常にどんな影響を与えるかについては、まだ多くの人が手探りの状態です。スマートフォンや家電、ネットサービスでのAIの活用は身近に感じられる一方で、「AIが仕事を奪うのではないか?」という漠然とした不安や、「新しい技術についていけるのか?」という懸念を抱く声もあります。特に、AIが今後の職場や働き方にどれほど影響を与えるのかについて、多くの社会人がさまざまな思いを抱いているのです。
そんな中、ONEマーケが実施したアンケート調査によって、社会人のAIに対する意識が明らかになりました。調査結果によると、驚くべきことに約6割の人がAIに関心を持っておらず、無関心層が大多数を占めていることがわかっています。一方で、「AIがサポートしてくれることで、もっと創造的な仕事に専念できるかもしれない」と期待を寄せる意見も少なくありません。AI時代に対する不安と期待が交錯するこの調査結果を通じて、これからの働き方について考えてみましょう。
調査背景及び概要
2024年6月28日、経済産業省が「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方2024」(※1)を発表し、生成AIの導入による業務効率化(DX化)の推進が注目されています。STILEは、このAI時代における「社会人のAI導入状況や働き方の変化」に焦点を当て、企業が生成AIにどのような見解を持っているかを調査しました。本調査は、全国の社会人242人を対象にしたオンラインアンケートで、Q1とQ5は単一回答、Q2からQ4は複数回答形式で実施されました。調査期間は2024年11月で、調査結果は小数点以下第2位を四捨五入しています。
※1:https://www.meti.go.jp/press/2024/06/20240628006/20240628006.html
調査結果サマリー
今回の調査では、生成AIに対する企業や個人の姿勢が明らかになりました。まず、AIの導入数に関して、「導入の予定はなく、関心もない」と回答した人が全体の59.5%にのぼり、生成AIの導入に積極的な企業と慎重な企業の二極化が見られました。次に、AIへの期待度については、半数以上が「業務効率化・生産性向上」に期待を寄せており、生成AIの活用範囲が広がりを見せていることがうかがえます。
一方で、AI導入への障壁も大きな課題です。多くの回答者が生成AI導入に障壁を感じていると答えており、期待と同時に懸念や不安が依然として根強いことが明らかになりました。さらに、AIに委ねたい業務としては、多くの人が単純作業をAIに任せたいと考えており、自動化によって従業員が創造的な業務に集中できる環境を望む声が多いことが分かります。
最後に、AI導入による影響については、大半の人が「AI導入により仕事内容が変化する」と回答しており、今後は仕事の質がより求められる傾向にあることが示唆されています。
導入の予定はなく、関心もない」企業が59.5%、生成AIへの二極化が進行中
調査の質問「あなたの職場では、業務において生成AI(Gemini、ChatGPTなど)を導入していますか?」に対し、59.5%の回答者が「導入の予定はなく、関心もない」と答えました。この結果から、多くの企業が生成AIの導入に対してまだ慎重な姿勢を取っていることがうかがえます。一方で、生成AIを積極的に活用している企業は全体の約10.7%にとどまり、導入が限られている現状が浮き彫りになっています。また、16.5%の企業は導入予定はないものの関心を示しており、今後のAI導入拡大の可能性が見込まれています。生成AI導入において、積極的に活用する企業と慎重な企業の間で二極化が進む兆しが見られます。
半数以上が「業務効率化・生産性向上」に期待、生成AI活用の広がりが示唆
「生成AIに期待することは何ですか?」という設問に対し、回答者の55.7%にあたる135名が「業務効率化・生産性向上」を期待していると回答しました。この結果は、多くの企業が人手不足や長時間労働といった課題を抱えている現状を反映していると言えるでしょう。また、生成AIの自動化や効率化により、97名(40%)が「コスト削減」にも期待を寄せています。生成AIが人件費や運用コストの削減に寄与すると考えられているのです。
さらに、67名(27.6%)は生成AIを活用して新しいアイデアを生み出し、事業の改善にも役立てることを期待しており、生成AIの活用範囲が業務の効率化やコスト削減にとどまらず、革新的な価値を生む手段としても見られていることが伺えます。
AI導入に立ちはだかる障壁、スキル不足・コスト・セキュリティが主な課題に
「AIを仕事で活用するにあたって、どのようなことが障壁だと感じますか?」という設問に対して、最も多くの回答を集めたのは「従業員のスキル不足・AIリテラシー不足」で、全体の43.4%にあたる105名がこれを課題と考えています。これは、AI導入を進めるにあたって、従業員が新しいスキルや知識を習得する必要性が高まっていることを示しています。
続いて、「導入コスト・運用コスト」を障壁と感じている人も多く、98名(40.5%)がこの項目を挙げました。AI導入には初期投資だけでなく、運用や保守にも継続的なコストがかかるため、コスト面での負担が懸念されています。
また、セキュリティ・プライバシーの問題も重要な障壁とされ、89名(36.7%)がこれを指摘しています。AI活用が進む中で、個人情報や機密情報の取り扱いが増えるため、セキュリティ対策が欠かせません。さらに、倫理的な問題や責任の所在の曖昧さについても74名が懸念を示しており、AIの判断による誤りやバイアスが問題になること、責任の所在を明確にする必要がある点が課題として挙がっています。
一方で、「障壁はない」と回答した人も44名(18.2%)おり、これらの企業はAI導入のメリットを大きく見込んで積極的に導入を進めていると考えられます。
AIに委ねたい業務は「単純作業」、創造的な業務へのシフトを期待
「生成AIに任せたい仕事は何ですか?」という設問に対し、回答者の45.9%にあたる111名が「データ収集・分析」をAIに委ねたいと考えていることが分かりました。データの収集や分析は時間と手間がかかるため、生成AIによる自動化や効率化が強く期待されています。
さらに、「文章作成・翻訳」もAIに任せたい業務として多くの回答が寄せられ、全体の42.6%(103名)がこの項目を選択しています。報告書やメールの作成、翻訳など、AIが文章作成業務をサポートすることで、業務の負担が軽減されると期待されています。定型業務やルーティンワークについても98名(40.1%)がAIに委託したいと考えており、業務効率化のニーズが伺えます。
このように、データ入力や資料作成、請求処理などの単純作業をAIに委ねることで、従業員がより創造的な業務に集中できる環境づくりが求められていることが浮き彫りになっています。
AI導入で仕事内容が変化、「質の向上」へのシフトが期待される
「生成AIの導入後、あなたの働き方はどのように変化すると予想しますか?」という設問に対し、24.4%にあたる59名が「仕事の量は減るが、質が求められるようになる」と回答しました。この結果から、AI導入によって業務の効率化が進む一方で、従業員にはより高い質の成果が期待されるようになると考えられています。
また、「自分の仕事がAIに代替される不安がある」と回答した人が14.9%(36名)いることから、AIによる雇用への影響に対する不安も一定数存在しています。一方で、「より創造的な仕事に集中できるようになる」と答えた人が15.7%(38名)、また「新しいスキルを習得する必要がある」と答えた人が16.5%(40名)いることから、AIの活用により創造性が求められる場面が増えると同時に、AIを使いこなすための新しいスキルの習得が必要とされていることが分かります。
一方、「AIが導入されても変化はないと思う」と回答した人も28.5%(69名)おり、AIの影響をあまり感じていない人も一定数存在します。これにより、AI導入による働き方の変化は業種や職種、さらには個人のスキルに依存する可能性があることが示唆されます。
※ONEマーケ (株式会社STILE) 調べ
株式会社STILE:https://stile-inc.jp/
AI時代に向けた新たな働き方への備えが求められる
今回のアンケートから、生成AIの導入に対する企業や個人のさまざまな姿勢が明らかになりました。生成AIに積極的な企業もある一方で、導入に慎重な企業も多く、AI導入における二極化が進んでいる現状が浮き彫りとなりました。また、多くの企業がAIを活用して業務の効率化やコスト削減を実現し、単純作業の自動化によって従業員が創造的な業務に集中できる環境を求めていることがわかります。
しかしながら、AI導入にはスキル不足や導入コスト、さらにはセキュリティや倫理的課題といった多くの障壁が存在し、AIの活用にはまだ越えなければならない壁があるのも事実です。また、AI導入によって仕事の質が一層求められるようになり、業務の変化や雇用への不安を抱く声も少なくありません。
AI技術がさらに進化して働き方が変わる時代において、企業や従業員にはスキル向上やガイドラインの整備など、AIを効果的に活用するための準備が求められます。AI時代の可能性を活かすためにも、私たちは今、AIと共存する新たな働き方を考え始める必要があるのかもしれません。