
「授業でがんばった分だけ、特典が得られる」——そんな少し先の未来のような仕組みが、すでに大学で始まっています。
千葉県にある千葉工業大学では、授業への参加や課題の提出など、学習の取り組みに応じて“cJPY”というトークンが配布される取り組みが行われました。この仮想通貨は、学内で開催されたイベントにおいて、実際に商品と引き換えられる仕組みが導入されており、学生たちはマイナンバーカードをタッチするだけで、学食のチケットやオリジナルグッズなどを手に入れることができたといいます。
注目すべきは、単なるポイント制度とは異なり、ブロックチェーン上で運用されるデジタルトークンとして設計されている点です。cJPYは売買や換金ができない設計となっており、あくまでも学習貢献への報酬として位置づけられています。
また、マイナンバーカードを活用した決済の仕組みも新鮮です。ブロックチェーンの技術と既存のインフラをかけ合わせることで、複雑なウォレット操作を必要とせずに仮想通貨決済を実現しています。
「勉強することで、価値が生まれる」。そんな教育とテクノロジーが融合した新たな試みは、教育のあり方に一石を投じるものとなりそうです。
ChibaTech Expo 2025で見えた「学びの新しい形」

千葉工業大学で開催された「ChibaTech Expo 2025」は、未来の学びを実践する場として注目を集めました。参加したのは、大学生や社会人を含む約240名。多くがプログラミング未経験者という中で、AIを活用したアプリケーションの開発や、学習成果を仮想通貨に変換する取り組みが実施されました。

特に特徴的だったのが、「授業に参加することで仮想通貨がもらえる」という仕組みです。受講生は授業の中でcJPYというデジタルトークンを獲得し、それを使って学内イベントで実際に商品と交換することができました。たとえば、学食の人気メニューを楽しめるディナー会のチケットや、授業オリジナルのステッカーやマグカップなどが用意され、マイナンバーカードを端末にかざすだけで決済が完了する体験が提供されました。
このような“学びがそのまま価値になる”設計は、従来の成績評価とは異なるモチベーションを生み出す可能性を秘めています。テストの点数ではなく、日々の参加姿勢やクラスでの発表、他の受講生へのサポートといった「行動」そのものが評価され、報酬として目に見える形で還元される仕組みは、教育現場に新たな視点をもたらします。

また、同イベントでは60チームに分かれての成果発表も行われました。ADHDの特性に配慮したタスク管理アプリや、重度心身障害児向けの音楽療法アプリ、高齢者向けの生活ログアプリなど、社会的意義の高いプロダクトが数多く並びました。いずれもAI技術を活用しており、技術とアイデアを通じて課題解決に向き合う姿勢が印象的です。
ChibaTech Expo 2025は、テクノロジーを使って「学び方」そのものをアップデートする可能性を示したイベントだったといえるでしょう。
教育現場に広がるAI活用と学習ログのデータ活用

ChibaTech Expo 2025では、トークンを活用した取り組みに加えて、AI技術を活用した学習支援の取り組みも注目を集めました。千葉工業大学では、AIによる講師システムを導入しており、4月から7月までの約4か月間で、AI講師が累計132時間の指導を実施しています。これは人間の講師に換算すると、約39万6千円分の教育サービスに相当します。

特徴的なのは、AIが24時間いつでも対応できる点です。実際にログインの97%が授業時間外に行われており、学生たちが好きなタイミングで質問や学習サポートを受けられる環境が整っていることが分かります。こうした柔軟性は、時間に制約のある社会人受講者にとっても大きなメリットとなります。
さらに、AI講師による個別最適化された指導は、学習成果の記録として「Verifiable Credentials(VC)」という形で発行されており、累計2,391件に達しています。これらのデータが蓄積されることで、AI自身の精度向上にもつながっており、学習支援の質が継続的に高まっていく仕組みが構築されています。
AIとブロックチェーン、そして教育の融合は、学習体験の質を変えるだけでなく、個々の努力や成果を客観的に蓄積・活用する基盤にもなりつつあります。
学習成果を“使える価値”に変えるcJPYとマイナンバーカード決済

授業に取り組むことで得られる「cJPY」は、学生の努力を“トークン”として見える化する新しい報酬システムです。このトークンは、ブロックチェーン技術を活用して発行されており、授業の参加状況や課題提出、他者への貢献度などに応じて付与されます。売買や換金はできず、学びへの対価としてのみ機能する設計が特徴です。
獲得したcJPYは、マイナンバーカードを使ってキャンパス内で実際の商品と交換することが可能です。専用アプリのインストールや複雑な操作は不要で、カードを端末にかざすだけで決済が完了する仕組みです。仮想通貨決済において課題とされてきた秘密鍵の管理やセキュリティリスクも、マイナンバーカードの高度な暗号技術によりクリアされています。
ブロックチェーンと既存インフラを掛け合わせたこの仕組みは、テクノロジーを日常の学びに自然に組み込む試みとして、注目すべきアプローチと言えるでしょう。
教育×テクノロジーが描く未来とは
今回の取り組みは、教育とテクノロジーの関係性を根本から見直すきっかけを与えてくれます。ICT化やデジタル教材の導入といった効率化とは異なり、「学びの質」や「貢献の姿勢」に価値を与えるという新たな視点が示されました。
注目すべきは、既存の社会インフラであるマイナンバーカードを活用した点です。新しい技術の導入には専用ツールや新規システムが必要になることが多い中で、既存のカードをそのまま活かすことで、社会への実装ハードルを大きく下げる実例となっています。
また、仮想通貨といえば投機や価格変動といったイメージが先行しがちですが、cJPYのように換金性を持たない教育専用設計によって、純粋なインセンティブとしての機能にフォーカスできることも大きなポイントです。これは、ブロックチェーン技術の新たな社会実装モデルとしても意義のある一歩だといえるでしょう。
学びを「見える化」し、その価値を「使えるもの」に変える仕組み。今後、こうした取り組みが他の大学や地域社会、さらには企業研修などへと広がっていく可能性も期待されます。教育の現場で育まれる日々の努力が、より豊かな社会に結びつく未来が、すぐそこまで来ているのかもしれません。