
防災というテーマに、子どもたちが自らの言葉で向き合う。そんな印象的なプログラムが、大阪・関西万博の公式イベント内で開催されました。
その名も「こども防災万博 – Presented by Hero Egg –」。主催は、メタバースやAIなど先端技術を活用したDX教育施設「Hero Egg」。今回のイベントでは、小学生から大学生まで幅広い世代の若者たちが登壇し、テクノロジーとアイデアを組み合わせた“未来の防災”を提案しました。
登壇者は日本国内にとどまらず、トルコやインドネシアといった海外の子どもたちもビデオメッセージで参加。災害体験や地域の取り組みを共有し合う中で、言語や国境を超えてつながる姿が印象的です。さらに、防災ソングの披露や、ウクライナからの避難経験をもとにしたプレゼンテーションなど、多様な切り口から「防災」という共通のテーマが語られました。
一見すると、子どもたちによる発表会のように思われるかもしれません。しかし実際には、そこには社会課題への鋭い問いや、次世代からのまっすぐなメッセージが込められていました。テクノロジーを学ぶだけでなく、それを使って社会に働きかける力を育てようとする「Hero Egg」の姿勢は、これからの教育のあり方にも大きな示唆を与えてくれます。
防災と教育をつなぐ新たな試み Hero Eggが描く子ども主体の社会づくり

2025年5月、大阪・関西万博の公式プログラムの一環として開催された「こども防災万博 – Presented by Hero Egg –」は、子どもや若者たちが自らの視点で“未来の防災”について考え、発信する特別なイベントです。主催を務めたのは、DX教育施設「Hero Egg」。AIやメタバースといった先端技術を活用した学びの場として、次世代の育成に取り組む教育拠点です。
Hero Eggは、ゲームやAIを活用したワークショップを通じて、子どもたちに実践的なスキルを楽しく学ばせることを目的に、2023年8月に大阪・なんばで開設されました。経済的な背景に関わらず、すべての子どもがテクノロジーに触れられる場を目指しており、今回の防災万博でもその理念が色濃く反映されています。
防災というテーマに、単に知識を与えるのではなく、「自分たちの社会をどう守るか」を子ども自身が考え、発言する構成が印象的です。Hero Eggの取り組みは、教育と社会課題を結びつける試みとして、多くの関心を集めています。
子どもたちのまなざしが描く未来の防災 多層的なプログラムから見える社会との接点
「こども防災万博 – Presented by Hero Egg –」では、子どもや若者たちが中心となって、自分たちの言葉で“防災”を語る多様なプログラムが展開されました。その内容は単なる学習発表の枠を超え、現実に起きている課題や、それに対して自分たちができることを真剣に考えた提案ばかりです。
中には地域での気づきをもとにしたアイデアから、先端テクノロジーを活用した構想、さらには戦争や災害を実際に経験した当事者によるプレゼンまで、多層的な視点が交差しました。
ここでは、その中でも特に印象的だった3つのプログラムを取り上げ、それぞれが持つメッセージや広がりについて紹介します。
地域の視点から生まれた防災アイデア 香川県の小学生によるピッチ発表

プログラムの冒頭を飾ったのは、香川県から参加した小学生10名による発表でした。登壇した子どもたちは、それぞれが自分の住む地域や日常生活の中から見つけた「防災の工夫」や「災害への備え」について、堂々と自らの言葉で伝えました。
発表の中では、避難所の使いにくさを改善するアイデアや、家族単位で取り組める防災習慣など、現実に即した具体的な提案が並びました。子どもならではの視点と、地域に根ざしたテーマが融合した内容は、会場の参加者にも新たな気づきを与えたようです。
その姿勢と発言に対して、会場からは温かい拍手が送られ、驚きや感心の声も上がったといいます。小学生という若い世代が、社会に対して“自分の考え”を発信することの力強さが伝わるセッションとなりました。
AIや宇宙視点で防災に挑む 中高大学生によるテクノロジーピッチ

多彩なプログラムの中には、「Hero Egg」が主催した防災ピッチコンテストを勝ち抜いた中高大学生7組による発表も含まれていました。彼らは「災害時に自分たちができること」をテーマに、それぞれが創意工夫を凝らした提案を行いました。
中でも印象的だったのは、宇宙から地球を俯瞰する視点を活用した防災対策や、AIを使って避難情報をより正確に伝えるモデルなど、テクノロジーを軸としたプレゼンテーションの数々です。若い世代ならではの柔軟な発想と、現実の課題に真摯に向き合う姿勢が感じられ、会場の大人たちからも関心が集まっていました。
こうしたプレゼンを通じて、防災と教育を結びつける新たな可能性が、具体的な形で示された場面だったといえるでしょう。テクノロジーを“知識”として学ぶだけでなく、“課題解決の手段”として使いこなす姿が、今後の防災教育のヒントにもなりそうです。
“守られるべき存在”から“語る存在”へ ウクライナからの特別ピッチ

プログラムの中では、戦争という極限の状況を実際に経験した当事者による発表も行われました。登壇したのは、ウクライナ・ハルキウから日本に避難中のポポヴィッチ・マリィア氏。現在は中央大学の法学研究科で学びながら、自らの避難経験を語る活動にも取り組んでいます。
この日、彼女は「災害や戦禍において、女性や子どもがどう守られるべきか」というテーマでプレゼンテーションを行いました。一般社団法人全国心理業連合会が運営する「ウクライナ心のケア交流センター 渋谷ひまわり」のサポートを受けて発信されたその言葉には、実体験に裏打ちされた強い説得力がありました。
マリィア氏の語りは、単なる体験談を超え、誰もが当事者となりうる防災の本質を問いかける内容でもありました。防災とは、遠い話ではなく「身近な人を守る力」であるという原点に、改めて立ち返る時間となったようです。
テクノロジーで学びを行動へ Hero Eggが描く防災教育の未来

プログラムの最後には、DX教育施設「Hero Egg」の代表・松石和俊氏と、Hero Eggを拠点に活動する中学3年生の起業家・近藤ニコル氏が登壇。防災とテクノロジー、そして教育を結びつける新たな学びのかたちについて語りました。

紹介されたのは、AIやメタバース、リスキリングといった先端要素を取り入れながら、子どもたちが「知る」だけでなく「行動する」ことへつなげていく教育デザインです。これまで“受け身”になりがちだった防災の学びを、主体的な参加と社会との接点を生む実践的なものへと変えていく姿勢が、会場の関心を集めていました。
Hero Eggが目指すのは、子どもたちの創造力と行動力が、地域社会や行政、企業とつながり合いながら「今を変えていく」学びの土台です。教育とDXが結びつくことで、防災というテーマに新たな視野が開かれていく――そんな可能性を感じさせるセッションとなりました。
子どもたちの声が社会に届くとき 知事からのメッセージと今後の展開

イベントでは、登壇した子どもたちに向けて、香川県知事・池田豊人氏、徳島県知事・後藤田正純氏からのビデオメッセージも届けられました。「次世代の声に耳を傾けることの大切さ」「地域防災における若者の役割への期待」といった言葉に、会場の子どもたちも真剣な表情で耳を傾けていたといいます。
自分たちのアイデアや行動が、大人や社会に届いているという実感は、子どもたちにとって何よりの励みになるものです。こうした行政からの応援は、防災教育の枠を超えて、次世代の社会参画を後押しする象徴的なシーンとなりました。
今後、Hero Eggでは、今回のような取り組みを全国や海外へと広げていく方針です。学校や自治体と連携した「地域版こども防災万博」の展開、AIやメタバースを活用した多言語対応の防災教育モデルの構築など、学びと社会をつなぐ挑戦はこれからも続いていきます。
未来をつくるのは、学んで動く子どもたち
「こども防災万博 – Presented by Hero Egg –」は、防災という社会的テーマに対して、子どもや若者が主体的に関わり、自らの視点で問いを投げかける貴重な機会となりました。テクノロジーを活用する力だけでなく、それを“どう使うか”を考える姿勢が、教育と社会の接点を明確に浮かび上がらせています。
知識や技術を学ぶ場から、実際に社会へと働きかける場へ。Hero Eggの取り組みは、まさにその“学びの進化”を体現していると言えるでしょう。防災を通して、誰かの命を守るために行動する力。それはきっと、次の時代を動かしていく子どもたちの中に、確かに育ちつつあるように感じられます。