
2025年1月から本格的に始動した株式会社明治の公式会員サービス「明治会員ID」は、スタートからわずか半年あまりで会員数10万人を突破しました。
この成長の背景には、ジョイントベンチャーとして設立された株式会社Wellnizeの戦略的な関与があります。これまで豊富な事業資産やアイデアを持ちながらも、単独では実現が難しかった明治。そこにWellnizeが持つデジタル技術を融合させることで、着実な成長を実現させ?たのです。
では、WellnizeはどのようなDX戦略を描き、そしてどこへ向かうのでしょうか。
合弁で挑むDXの“本流化”

「株式会社Wellnize(以下、Wellnize)」は、株式会社明治(以下、明治)とベンチャー企業の株式会社Co-Lift、株式会社ゲキジョウの3社による合弁会社です。もともと両ベンチャーは受託という立場で明治と協業していました。しかし、受託だと稼働に対してフィーをもらうだけで、どうしても“外部”の立場にとどまってしまいます。
Wellnize代表取締役の木下氏はこう振り返ります。
「受託では、サービスを成長させることと稼働の報酬の方向性が揃わないことがあります。つまり、サービスが大きく成長しても報酬は工数ベースのままなので、どうしても熱量に差が出てしまうのです。DXを本流に据えるには、同じリスクとリターンを背負う必要がありました」

また明治側も同様の課題を感じていました。明治で価値創造戦略本部G長をつとめる川端氏は、次のように語ります。
「食品メーカーとしての商品開発や顧客サービスに対するソリューション(解決策)はありますが、それをデジタル活用するための経験がないのが弱み。そこを補完し合って“一緒の会社”として推進する形を考えました」

こうして誕生したWellnizeは、明治が持つ「食・ヘルスケア」に関する事業資産にWellnizeのデジタル技術を掛け合わせた「共創DXモデル」としてスタートしました。実務上も、明治のDXチームとWellnizeのチームは一体化して進められています。
学習から始めた1年と明治会員ID10万人の獲得へ
2023年10月、「明治会員ID」サービスは育児アプリ「赤ちゃんノート」からスタートしました。しかし当初は急拡大を狙わず、学習期間を設けたといいます。
「最初の1年ほどは、大規模なマーケティング活動やプロモーションは控えました。デジタルサービスの運用にあたり、社内でノウハウを蓄積しつつ本格展開に備えていくためには、長めの準備期間が必要だったのです。これが特徴的な点ですね」と木下氏。

その戦略は功を奏し、2025年1月に本格展開を開始すると、半年あまりで会員数は10万人を突破したのです。
明治ブランドを“点”から“面”へ展開
明治には粉ミルク、プロテイン、チョコレート、ヨーグルト、シニア向け栄養食など多様なブランドがあります。しかし顧客接点はブランドごとに分断されていました。川端氏は当時の明治における課題についてこう説明します。
「赤ちゃんは『粉ミルク』、子どもは『お菓子』、大人は『美容・栄養』、そしてシニアは『健康』――。このように、明治にはライフステージや消費シーンに合わせた幅広いブランドがあります。しかし、それはそれぞれ独立した“点”の存在。それを、明治会員IDを共通の基盤に据えることで、これらを人生を通じた“線”としてつなげていくのを課題としました」
これに対し、木下氏はWellnizeとしての働きかけについて次のように語りました。「その線を横断的に展開し、“面”として拡大するのが我々の役目です。IDを中心にサービスやキャンペーンを統合して、LTV最大化を狙います」
Wellnizeでは明治会員IDを軸に、複数のサービスを統合して展開することで顧客との接点を広げ、ブランド認知を高める仕組みを作りました。
明治会員IDを軸にしたサービス展開とブランド接点の拡張
明治会員IDに登録すると、複数のサービスやキャンペーンを共通IDで利用できます。まずは1つのサービスに登録してもらい、ポイントやクーポンを通じて別のサービスやキャンペーンに誘導することで、明治ブランド全体の体験を横に広げていくのが狙いです。
こうした経緯で、会員数は急速に増加し10万人を突破。そのうちの57%が30〜50代の女性中心だといいます。複数サービスやキャンペーンを横断して利用するユーザーも増えており、キャンペーン参加者の42%が2つ以上のキャンペーンに参加、「ザバスアプリ」利用者の12%が「免疫チェック」も併用しています。
IDで利用できる主なサービスとキャンペーン

・赤ちゃんノート
育児記録アプリ。新規会員登録を起点にポイント付与、大型キャンペーンで会員獲得
・ザバスアプリ
食事記録とパフォーマンス向上アドバイス。免疫チェックとの併用で健康意識を横断的に訴求
・免疫チェック
唾液中のIgA値から免疫状態をチェック。ポイント利用でコンビニクーポンと交換可能
・インナーガーデン
腸内フローラ検査とパーソナルココア。健康系サービスとして、アポロやお菓子系キャンペーンで獲得したユーザーからの反響も
・明治ポイント&クーポン
キャンペーンやサービス利用でポイントを付与。クーポン交換での人気はガルボ(44%)
・ミラマル
新商品や未流通商品をいち早く体験。IDを通じて体験者を募り、テストマーケティングに活用
キャンペーンの横展開例
・キノコの山 ワイヤレスイヤホンキャンペーン
会員限定で当選確率アップ
・R-1プロバイオギフト券キャンペーン
夏場の体調管理を応援
・アポロ55周年 純金アポロキャンペーン
明治ID会員限定フックの企画
・エッセル チョコミント新味発売キャンペーン
口に合わなくてもバニラクーポンに交換できる保険付き
・子育て中ママ向けプレミアムギフト
お子さまの写真入り商品など特別仕様、会員限定
木下氏は「ブランドを横断して利用してもらう動きが出てきていることが大事です」と強調。明治担当者も「クーポン交換から、“ご褒美としてのお菓子”の価値が見えてきました」と説明します。

ポイントやキャンペーンを起点に横展開を進めることで、単なる会員数拡大にとどまらず、IDを軸とした分析やCRM施策に活用できます。これにより、ブランド体験の質を高めるサイクルが生まれ、明治の商品・サービス全体の認知拡大と消費者体験向上に結びついています。
明治会員ID数15万人へ――Wellnizeの展望

Wellnizeは、これからも明治の全ブランドを横断してライフステージ全体をつなぐ体験を設計していく方針です。さらに明治会員ID数が10万人を突破した状況を踏まえ、木下氏はこのような目標を掲げました。
「2026年春までの目標である15万人を早期に達成することを目標に、引き続き各ブランドの横断的施策やキャンペーンを通じて会員基盤の拡大を進めていきたい」
Wellnizeは、単なるDX支援会社ではなく、「事業の一部を共に創るパートナー」として、これからも大企業の変革を内側からサポートする役目を担っていくことでしょう。