DX時代の人材危機、鍵を握るのは「難民」の可能性!「GISC」正式設立

近年、世界中でDX人材の不足が深刻化しています。特に、日本では経済産業省の報告によると2030年には約79万人のIT人材が不足するとされ、企業は即戦力となるグローバルDX人材の確保に頭を悩ませています。一方で、世界には戦争や迫害、気候変動によって1億2千万人以上が故郷を追われ、生活の安定を求めている現状があります。 こうした状況を背景に、企業が業務委託を通じて難民や移民をDX人材として活用する新たな枠組みが注目されています。その中心となるのが、2025年2月10日に正式設立された「グローバル インパクト ソーシング コンソーシアム(GISC)」です。GISCは、企業と難民・移民をつなぎ、DX分野の業務委託を通じてグローバルな人材採用と社会包摂の両立を目指しています。この取り組みは、企業の人材確保のみならず、ESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)への貢献という観点からも関心を集めています。

難民をDX人材へ!GISCと企業が共創する新たなキャリアパス

GISC(グローバル インパクト ソーシング コンソーシアム)は、難民や移民をDX人材として育成し、企業の業務委託を通じて社会参画を促進するプラットフォームです。難民の多くは、母国で高度な教育を受けた人も少なくありませんが、移住先では就労機会が限られ、スキルを活かせない現状があります。GISCは、そうした人材に対してリスキリング(再教育)やアップスキリング(スキル向上)を提供し、DX人材としての活躍を支援しています。 GISCに加盟する企業・団体には、AIデータ作成、ソフトウェア開発、IoT技術などを活用したプロジェクトを手掛ける企業が名を連ねています。

具体的な取り組みとして、以下のような事例があります

・アノテーションサポート株式会社:AIデータ作成業務を通じて、マレーシアの無国籍者の雇用創出を実現
・株式会社BonZuttner:シリア人エンジニアと協働し、IoTやAI開発を推進
・株式会社Eukarya:スマートシティ開発に難民を参画させ、デジタル公共財の開発に貢献

これらのプロジェクトは、難民自身の経済的自立だけでなく、企業のDX推進にも大きく貢献しています。

GISC公式ウェブサイト: https://gisc.jp/

GISCの中心にある「インパクトソーシング」とは、企業が業務委託を通じて、就労困難な人々に仕事の機会を提供する仕組みです。従来の「インパクトハイアリング(直接雇用)」とは異なり、アウトソーシングの形を取るため、企業にとっては変動費として扱うことができ、不景気でも導入しやすいというメリットがあります。

また、インパクトソーシングは、企業にとって以下のような利点をもたらします。

1. グローバルDX人材の確保
難民や移民は、多言語能力や異文化理解のスキルを持ち、国際ビジネスに適応しやすいです。

2. 柔軟なトライアル機会
業務委託を通じて人材を試用でき、優秀な人材を正規雇用へとつなげることが可能です。

3. コストの最適化
正規雇用ではなく、アウトソースのため、採用リスクを抑えつつ優秀な人材を活用できます。

4. ESG・SDGsへの貢献
「ビジネスと人権」が重視される中、難民支援を通じて企業の社会的責任を果たせます。

このように、インパクトソーシングは、企業と難民の双方にとって有益なモデルとして注目されています。

GISC発足記念!企業×難民の未来を語るシンポジウム開催

2024年11月28日には、東京・国連大学でGISCの発足を記念するシンポジウムが開催されました。基調講演では、Welcome Japanの代表理事が登壇。GISC加盟企業による取り組み紹介では、各社がDXを活用した難民支援事例を発表しました。

さらに、シンポジウムに先立ち、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)のフィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官や伊藤礼樹 駐日事務所代表と、GISCに加盟する組織や難民人材による対談が行われました。
フィリッポ国連難民高等弁務官は、難民が適切な機会と環境を得ることで経済的自立を実現し、社会や企業の成長にも貢献できると高く評価しました。
対談には、ミャンマーやシリア出身の難民人材も参加し、自らの経験をもとに、新たな教育機会や就労支援のアプローチとしてキャリアインパクトボンドやデジタルインパクトソーシングの意義について語りました。

支援から共創へ!難民がDX社会の一員になる時代

今回のGISCの取り組みは、単なる人道支援にとどまらず、世界的なDX人材不足の課題を解決する可能性を秘めています。これまで、難民支援は「福祉」や「慈善活動」として捉えられることが多かったですが、GISCのようなアプローチは、難民を「支援される側」ではなく、DX社会の一員として活躍できる存在として位置づけるものです。 また、日本企業にとっても、DX推進のパートナーとして多様なバックグラウンドを持つ人材を活用できることは大きなメリットでしょう。特に、リモートワークの普及によって、海外在住の難民もプロジェクトに参加できるため、物理的な距離の壁を越えた新たな人材活用モデルが生まれつつあります。 今後、GISCがどのように企業とのマッチングを進め、実際の雇用創出につなげるのか、その動向に注目したいです。DX人材不足という課題と、難民の就労機会拡大という社会的使命を両立させるこのモデルが、持続可能な未来を築く一歩となることを期待しています。

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