官民の垣根を超えた一歩――こども家庭庁がスタートアップ企業と本気で語り合う「こどもまんなか」の未来

少子化が加速する一方で、保育施設や人材の不足、働く親への支援不足など、子育て世帯へのサポートが行き届かない現状があります。行政も制度見直しを続けていますが、多様化する課題のすべてをカバーするのは容易ではありません。

そこでこども家庭庁は、行政だけでは解決が難しい問題に向き合う新たなパートナーとして、民間スタートアップ企業との連携を始動。2026年4月27日、そのキックオフとなる「こども若者まんなかダイアローグ withスタートアップ」が開催されました。

会場には、行政職員とスタートアップ企業20社が参加。官民の垣根を超えた「こどもとともに成長する企業構想(CCB)」への熱い対話が繰り広げられました。

CCBとは? なぜいま民間との連携なのか

時代の移り変わりとともに、こどもたちをとりまく環境は常に変化をしています。

特に近年は、デジタル技術の発展で社会がより多様化・複雑化する中、将来を担うこどもや親へのサポートは不可欠です。しかし、そこには行政のバックアップが追いつかない現実があります。

こども家庭庁 長官官房参事官 湯山壮一郎氏

「正直、行政やこども家庭庁だけで解決できることには限界があると思っています」
こども家庭庁長官官房参事官・湯山壮一郎氏は、今の日本の現状についてこう吐露します。その背景として、出生率の低下に加え、不登校者数・自殺者数が過去最多であること、いじめの深刻化などを指摘。日本のこどもの精神的な幸福度に至っては、38カ国中37位という厳しい現実も明らかにしました。

そこで打ち出された取り組みが「こどもとともに成長する企業構想(以下、CCB)」です。これは、行政と民間のスタートアップ企業が手を取り合い、「社会的価値」と「企業価値」の向上を好循環させることで、「こどもまんなか社会」の実現を目指す試みです。

内閣府大臣政務官(こども政策担当) 古川直季氏

キックオフにあたり、内閣府大臣政務官の古川直季氏も「官民の垣根を越えた新しい挑戦がここから始まります」と、国としての強い決意を表明しました。

課題解決に挑むスタートアップの技術

会場では、保育、インフラ、安全、キャリアなど多岐にわたる分野の20社が、独自の技術を発表しました。

テクノロジーで「育児の困りごと」を解決する

特に関心を集めたのは、DFree株式会社の排尿予測機器「DFree Home Care」です。超音波センサーでトイレのタイミングを通知し、行政の制度では手が届かなかった「日々の切実な困りごと」を技術で解決する好例を示しました。

親のキャリアと心を守る

XTalent株式会社は、働く親に特化した転職支援を通じ「キャリアと家庭を両立できる働き方」を提唱。また、株式会社Josan-she'sは助産師によるオンライン相談で産後の孤立を防ぐ役割を強調しました。これらは、親の心の余裕がこどもへの良質なサポートに繋がるという、新しい視点の支援です。

「行政の限界」を埋める公共DX

児童虐待リスクをAIで検知する株式会社AiCANは、「行政の施策だけでは救えない命がある。その間を繋ぐのがスタートアップ」と官民連携の本質を突く発言。Trim株式会社の設置型ベビーケアルームのように、物理的な「箱」とデータを組み合わせ、外出のハードルを壊す挑戦も続いています。

多様な家族への寄り添い

株式会社クロスメディスンは、泣き声AI分析アプリ「あわべビ」で育児負担を軽減。ひとり親支援や地域コミュニティの可視化など、従来の行政サービスでは届きにくかった個別ニーズに寄り添う姿が印象的でした。

今後の課題について、スタートアップ会社と手を組む意義

こども家庭庁の各担当者も、専門領域の視点から、スタートアップの技術を前向きに分析していました。

成育局母子保健課 課長 田中彰子氏

まず母子保健課の田中氏は「プレコンセプションケア(将来の健康管理)」の重要性を説きつつ、それをどうやって家庭や個人に届けるかという「情報のリーチ」に注目。アプリやデバイスといった技術が、行政の届かない隙間を埋める力になると期待を寄せました。

成育局成育環境課 課長 安里賀奈子氏

続けて成育環境課の安里氏は、「こどもの居場所づくり」において、行政主導ではどうしても画一的になりがちな部分に対し、スタートアップが持つ「現場のニーズを汲み取る柔軟さ」に言及。民間の力を借りることで、より血の通った環境整備ができる可能性に触れました。

支援局家庭福祉課 室長 伊藤涼子氏

また家庭福祉課の伊藤氏は、「ひとり親支援」など、複雑で多岐にわたる課題に対し、情報をバラバラにせず「繋ぐこと」の重要性を強調。現場に根ざしたシステムが、支援の質をどう底上げするかに注目していました。

グループシェアタイムでは、行政とスタートアップ企業それぞれの「こどもまんなか社会」への思いをぶつけ合うシーンも。その表情はどちらも真剣で、こどもたちや親たちへの思いにあふれていました。

官民が対等に取り組む本気のパートナーシップ

総合政策等担当審議官 水田功氏

公務のため途中席を外していた水田審議官は、会場を包む熱気に圧倒された様子で、官民の枠を超えた議論に強い期待を寄せました。

水田氏は「行政だけでできることには限界がある」と改めて認め、課題解決の先駆者であるスタートアップ企業を、共に高め合うパートナーとして歓迎すると語りました。

行政が自らの限界を認め、民間のフットワークを信じて手を取り合う――。
この対話の場は、日本の育児環境を本気でアップデートしていくための、新たな一歩を感じさせる締めくくりとなりました。

<取材・撮影・文/櫻井れき>

おすすめの記事