
AIという言葉を耳にする機会は増えていますが、「実際にどんな場面で使われているのか」「自分たちの生活や仕事とどう関係してくるのか」については、まだ実感しにくいと感じている人も多いかもしれません。
そんな中、実在する人物をもとにしたAIアバターを活用し、新しい表現やコミュニケーションの形を生み出そうとする動きが注目を集めています。
渋谷を拠点とするカスタマークラウドは、AIアバター制作サービス「AI Avatar GEN」を新たな事業として本格的に展開しました。番組出演者をきっかけにした取り組みや、短期間で制作できる点、動画やSNSと組み合わせやすい特徴などが関心を呼び、経済メディアからの取材が増えていることも、注目を集める背景の一つとなっています。
さらに同社は、AI動画生成をテーマにした国際的なイベント「Global Video Hackathon」を主催し、世界中のクリエイターやエンジニアに向けて、新しい映像表現への挑戦の場を用意しました。
AIアバターやAI動画は、エンターテインメントにとどまらず、企業の発信や表現のあり方をどのように変えていくのでしょうか。この記事では、その取り組みの内容を整理しながら見ていきます。
出演者を起点に広がるAIアバター事業の動き

今回の取り組みで特徴的なのは、番組そのものではなく、出演者一人ひとりに焦点を当ててAIアバター制作を事業として展開している点です。番組出演をきっかけに注目を集めた人物の発信力や背景を起点に、AIアバターという形で新たな表現につなげています。
このような展開は、単なる話題づくりにとどまらず、どのように事業として成立させるかという視点が意識されている点でも関心を集めています。出演者のストーリーや存在感を軸にすることで、AIアバターを一過性の企画ではなく、継続的に活用できる仕組みとして位置づけていることがうかがえます。
こうした動きは、エンターテインメントの文脈だけで完結するものではありません。個人の発信力とAI技術を組み合わせることで、企業の表現方法やコミュニケーションのあり方にも応用できる可能性があり、その点が経済メディアや関係者の関心を集める理由の一つとなっています。
AIアバターという技術そのものだけでなく、「誰を起点に、どのように使われていくのか」という視点が、今回の事業化において重要なポイントになっていると言えそうです。
AIアバター制作を支える仕組みと活用イメージ

このAIアバター事業を支えているのが、カスタマークラウドが運営する「AI Dreams Factory」の技術です。実在する人物をもとにAIアバターを生成し、動画やSNSなどで使いやすい形に落とし込める点が特徴とされています。
想定されている活用シーンは幅広く、企業のマーケティングや広報、イベントでの発信など、さまざまな場面が挙げられています。特別な演出を加えなくても、人物の存在感を活かしたコンテンツを比較的短い期間で用意できる点は、これまでの制作手法とは異なる印象を受けます。
また、AIアバターは静止した画像ではなく、動画やSNS投稿と組み合わせて使われることを前提としているため、オンライン上での情報発信と相性が良い点も特徴の一つです。人が登場するコンテンツでありながら、撮影や出演の制約を受けにくいという点は、企業側にとっても現実的な選択肢になり得ます。
AIという言葉から難しさを感じる人もいるかもしれませんが、ここで目指されているのは技術そのものを前面に出すことではなく、伝えたい内容や人物の魅力を、より使いやすい形で届ける仕組みだと言えそうです。
企業向けを中心に広がるAIアバター活用の方向性

この取り組みは、個人向けのサービスというよりも、法人向けの活用を主軸に据えて進められています。AIアバターを単発のコンテンツとして扱うのではなく、企業の情報発信やコミュニケーションを支える手段の一つとして位置づけている点が特徴です。
企業活動においては、継続的に情報を発信する必要がある一方で、撮影や出演者の調整などが負担になる場面も少なくありません。AIアバターを活用することで、そうした制約を抑えながら、人物を軸にした表現を続けていくことが可能になります。
また、広告やプロモーションに限らず、広報活動やイベント施策など、用途を限定しすぎていない点も現実的です。特定の業界や目的に閉じたサービスではなく、企業ごとの課題や発信スタイルに合わせて使われることが想定されています。
今後は、法人向けを中心に提供体制を整えながら、AIアバターの活用領域を広げていく方針とされています。派手な表現よりも、実務の中でどう使われていくのかという視点が重視されている点が、この取り組みの特徴だと言えそうです。
世界に向けた実験の場としての「Global Video Hackathon」

今回の取り組みは、AIアバター事業だけにとどまりません。カスタマークラウドは、AI動画生成をテーマにした国際イベント「Global Video Hackathon」を主催し、世界中のクリエイターや開発者に向けた挑戦の場を用意しています。
このイベントでは、AIを使った動画生成技術を活用し、これまでにない映像表現やインタラクティブな動画制作に取り組むことができます。参加対象は特定の国や地域に限定されておらず、グローバル規模でアイデアや表現が集まる点が特徴です。
ここで重視されているのは、完成度の高い作品を競うことだけではありません。AIを使うことで、どのような映像表現が可能になるのか、どんな使い方が考えられるのかを試す「実験の場」としての役割も担っています。企業主導のイベントでありながら、自由度の高い挑戦ができる点は、参加者にとっても意味のある機会になりそうです。
AIアバター事業が企業向けの実装を意識した取り組みであるのに対し、Global Video Hackathonは、より広い視点でAI映像表現の可能性を探る場と言えます。こうした両輪の動きが、国内にとどまらず、世界を視野に入れた展開につながっていることがうかがえます。
AIアバターとAI動画が示す、これからの表現のかたち
AIアバターやAI動画というと、最先端の技術や一部の専門分野の話に感じられるかもしれません。しかし今回の取り組みを見ていくと、技術そのものを前に出すというよりも、「人の存在」や「伝え方」にどう結びつけるかが重視されていることが分かります。
出演者を起点にしたAIアバター事業や、企業向けの実用的な活用を想定した展開は、AIを特別なものではなく、日常的な発信や表現の延長線上に置こうとする試みとも受け取れます。また、世界中のクリエイターが参加するハッカソンの開催は、国内に閉じない形で可能性を広げようとする姿勢を示しています。
AIを使うこと自体が目的になるのではなく、誰が、どのように使い、どんなコミュニケーションが生まれるのか。その問いに向き合いながら進められている点が、今回の取り組みの本質と言えそうです。今後、AIアバターやAI動画がどのように社会や企業の中に溶け込んでいくのか、その動きは引き続き注目されそうです。