AI時代に人間に求められるものとは?CEATEC 2026で語られた創造性と未来社会のあり方

AIが文章を書き、音楽や画像まで生み出すようになった今、私たち人間の役割はこれからどう変わっていくのでしょうか。技術の進歩によって便利になる一方で、人間ならではの創造性や、AIと共に生きる社会のあり方について考えることも重要になっています。

2026年10月13日、千葉県の幕張メッセで開催された「CEATEC 2026」において、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が特別企画「テクノロジー右脳左脳対談」を実施しました。登壇したのは、デジタル社会の研究に携わる慶應義塾大学名誉教授の國領二郎氏と、AIを活用した音楽表現に取り組む音楽家の渋谷慶一郎氏です。

異なる分野で活躍する2人が語り合ったのは、AIの進化が人間にもたらす変化や、新しい社会のルール、そして未来を切り開く人材に必要なものについてです。今回は、対談で交わされた議論を中心に、IPAが会場で展開した体験型展示についても紹介します。

AI時代の未来を考える、異分野の専門家による特別対談

今回の対談が行われた「CEATEC 2026」は、最新のデジタル技術や社会の未来に関する取り組みが紹介される展示会です。10月13日から16日まで幕張メッセで開催され、IPAも出展団体の一つとして参加しました。その初日に実施されたのが、スペシャルセッション「テクノロジー右脳左脳対談」です。

対談に先立ち、IPA理事長の齊藤裕氏が登壇し、AIの普及によって変化する社会と、今後のIPAの役割について説明しました。AIは仕事を効率化するための道具から、社会全体を支える重要な仕組みへと変わりつつあります。こうした変化を背景に、IPAは技術の普及だけでなく、企業や研究機関などが協力して新しい価値を生み出せる環境づくりにも力を入れていく方針を示しました。

続いて登壇したのは、デジタル社会の仕組みや政策に詳しい慶應義塾大学名誉教授の國領二郎氏と、AIや人型ロボットを使った音楽作品を手がける渋谷慶一郎氏です。社会の仕組みを研究する立場と、テクノロジーを芸術表現に取り入れる立場という、異なる視点を持つ2人が顔を合わせました。

約40分間のセッションでは、AIの進化が人間の考え方や創造性に与える影響をはじめ、社会に必要なルールや次世代の人材育成まで、幅広いテーマについて意見が交わされました。

AIの進化で人間の創造性はどう変わる?

AIが急速に進化するなか、人間の考え方や創造性にはどのような変化が生まれるのでしょうか。対談では、テクノロジーの発展が人間の本質や表現活動に与える影響について、それぞれの立場から意見が交わされました。

國領氏は、AIの進歩を近代化以来、約200年ぶりの大きな社会の変化と捉え、人間の自律性や個人のあり方を根本から考え直す時期に来ていると指摘しました。また、人間を独立した存在として捉える従来の考え方だけでなく、自然の一部として捉える東洋的な思想も、これからの社会を考えるうえで重要な視点になり得ると語りました。

一方、渋谷氏は、AIを搭載した人型ロボットによるオペラなど、自身の創作活動をもとに新たな可能性を示しました。AIが予想外の動きをしたり、通常とは異なる反応を見せたりすることも、芸術の世界では新しい表現につながるといいます。これまで人間が想像していなかった感情や表現が、AIとの協働によって生まれる可能性に触れました。

社会の仕組みを研究する國領氏と、芸術の現場でAIを活用する渋谷氏。アプローチは異なりますが、どちらの視点からも、AIの進化は単に人間の作業を代わりに行うだけではないことがうかがえます。人間の価値観や創造性そのものを見つめ直すきっかけになるという点が、今回の議論で浮かび上がりました。

AIが社会に広がる未来、求められるルールと人間の意志

AIの活用が広がるにつれ、技術の進歩だけでなく、社会のルールづくりも重要な課題となっています。國領氏は、AIが人間の代わりに判断や行動を行う「AIエージェント」の普及によって、すでに具体的な問題が生じていると指摘しました。例えば、AIにどこまで行動を任せられるのか、問題が起きた場合に誰が責任を負うのかといった点です。

こうした課題に対し、國領氏は既存の法律や制度だけでは対応しきれない部分があると説明し、社会全体で共通のルールや合意をつくる必要性を訴えました。一方、渋谷氏は国際的な競争や安全保障にも触れ、日本が独自の技術や新しいものを生み出す力を大切にしながら、世界のルールづくりに積極的に関わるべきだという考えを示しました。

さらに議論は、AI時代を担う人材の育成へと展開しました。渋谷氏が重視したのは、知識や能力だけでなく「どうしても実現したい」という強い欲望や衝動を持つ人材です。そうした才能を見極め、国際的な実践の場に送り出すことや、突出した才能に集中的な支援を行う仕組みの重要性を語りました。國領氏もこれに同意し、個人の可能性を信じて挑戦を後押しする環境づくりが、新たな技術や価値を生み出す基盤になると述べました。

対談の終盤には、会場から「欲望とは何か」という質問も寄せられました。渋谷氏は、自分の存在意義に関わるほどの強い決意であり、自分のためだけでなく他者にもつながる原動力だと説明。國領氏も、個人の欲望や衝動を否定するのではなく、社会の活力や新しい価値の創出につなげることが重要だと語りました。AIが高度化する未来においても、人間が何を実現したいのかという強い意志が、大切な意味を持つことを感じさせる議論となりました。

来場者の声が光になる、IPAの体験型展示「PROTOCOL ENGINE」

CEATEC 2026のIPAブースでは、特別対談に加えて、来場者が参加できる体験型展示「PROTOCOL ENGINE(プロトコルエンジン)」も展開されました。これは、一人ひとりの意見や選択が集まることで、社会の仕組みが形づくられていく様子を、光と映像で表現する展示です。

来場者が端末からテクノロジーに関するアンケートに回答すると、光の線が現れ、頭上に設置された360度の円形LEDにカラフルな図形として映し出されます。一人ひとりの回答がリアルタイムで集まり、映像として表現されることで、個人の声が社会の仕組みづくりにつながっていく様子を視覚的に体験できます。

この展示には、デジタル技術を活用した未来の社会を、一部の専門家や企業だけでなく、多様な人々と共に考え、つくり上げていくというIPAの考え方が込められています。技術そのものを紹介するだけではなく、来場者自身が参加することで、社会の仕組みづくりを身近に感じられる内容となっています。

AIやデジタル技術が社会に深く関わる時代だからこそ、どのような未来を望むのかを一人ひとりが考えることも大切です。「PROTOCOL ENGINE」は、そうした問いを光の演出を通じて表現する、ユニークな試みといえるでしょう。

AIと人間が共に未来をつくるために

AIの進化は、私たちの暮らしや仕事を便利にするだけでなく、人間の考え方や社会の仕組みにも大きな変化をもたらそうとしています。今回の対談では、技術の発展によって広がる可能性とともに、新たなルールづくりや、人間ならではの創造性についてもさまざまな視点が示されました。

特に印象的だったのは、これからの時代を切り開く力として「欲望」や「衝動」が語られたことです。AIが多くのことを実現できるようになっても、何を生み出したいのか、どんな未来を目指したいのかという人間の意志は、変わらず重要な意味を持つのかもしれません。

技術をどのように活用し、どのような社会を築いていくのか。AIと人間の関係が大きく変わろうとしている今、今回の対談は、私たち一人ひとりが未来との向き合い方を考えるきっかけとなりそうです。

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