スタートアップの未来を担うCxO人材-その現状と課題、そして新たな可能性

2022年11月、岸田政権が打ち出した経済政策「スタートアップ育成5か年計画」がスタートしました。それから2年3カ月が経過し、現在進行形でスタートアップを育てようとさまざまな取り組みが進められています。

この計画は、2027年までにユニコーン企業を100社創設し、スタートアップ企業を10万社創出するという壮大な目標を掲げています。「新しい資本主義」の考え方を体現し、約1兆円の予算を投じるこの取り組みは、日本をアジア最大のスタートアップハブとすることを目指しています。

では、この計画は今どのような段階にあるのでしょうか。また、スタートアップに不可欠なCxO人材の採用状況はどうなっているのでしょうか。その実態を探るため、6日都内で行われたアクシスコンサルティング株式会社が主催するラウンドテーブルに参加しました。

CxOとは? CEO・COOとの違いとその役割

CxOとは「Chief(リーダー)」+「x(担当業務)」+「Officer(執行役)」の組み合わせからなる経営用語で、xの部分に入る業務に応じて職務が決まります。例えば、CEO(Chief Executive Officer)は最高経営責任者、COO(Chief Operating Officer)は最高執行責任者を指します。

従来の日本型経営組織よりも各執行部門の役割が明確であり、迅速な意思決定が可能な点が特徴です。ソニーやマクドナルドなど、外資系企業やグローバル市場を意識した企業がCxOを積極的に導入しているほか、スタートアップ企業においても外部の専門人材を確保するためにCxOの採用が増加しています。

スタートアップとCxO

株式会社StartPassのCOO早川浩之氏は、現在のスタートアップ市場について次のように分析しています。

スタートアップについて現状分析を行う早川浩之氏

「ここ5年でスタートアップ企業の数は着実に増加しており、国内の新規上場企業を見ても毎年50社前後が誕生しています。この傾向は今後も続くと予測され、それに伴いCxO人材のニーズも高まり続けるはずです」

実際、日本国内で募集されるスタートアップのCxOポジションの年間求人数は、2024年時点で約5,850件と推定されています。特に需要が高いのはCTO(最高技術責任者)やCFO(最高財務責任者)など、専門性が求められるポジションです。

また、スタートアップファンドの視点からもCxO人材へのニーズが高まっていることが指摘されました。特にCMO(最高マーケティング責任者)の需要が増加していることがわかっています。

アクシスコンサルティングのCOO伊藤文隆氏も次のようにコメントしました。

「日本の労働人口が減少し続けるなかで、ビジネスリーダーのポジションに立つ人材はどんどん不足する傾向があります。しかし、日本には多くの潜在的なハイエンド人材が眠っており、これらの人材を活用することが急務です」

CxO人材の重要性を語る伊藤文隆氏

CxOに求められるスキルとは? 専門性・起業家精神・ビジョンへの共感

左から伊藤氏、江戸川泰路氏、小原聖誉氏

求められるCxO人材について説明する江戸川氏

今回のラウンドテーブルでは、スタートアップが求めるCxO人材についても議論が交わされました。EDiX Professional Groupの江戸川泰路氏は、CxOに必要なスキルとして以下の3つのポイントを挙げました。

1.高い専門性
2.アントレプレナーシップ(起業家精神)
3.ビジョンへの共感力

「スタートアップでは、一般企業よりも課題が複雑であり、専門的な知識を持つ即戦力の人材が求められます。また、単にスキルが高いだけでなく、イノベーションを通じて社会をより良くしていこうという強い意志、すなわちアントレプレナーシップが必要です。そして、スタートアップのビジョンに共感できることも極めて重要です」

CxO人材を副業から始めることについて話す小原氏

江戸川氏の言う「ビジョンへの共感」に絡めてStartPass CEOの小原聖誉氏は、CxOの採用について次のように語りました。

「特に創業2年目くらいのスタートアップは、創業者と同じ目線で熱意を持って働ける人材を求めがちです。私自身もそうでしたが、実際にはそういった人材を見つけるのは非常に難しいことです。そこで、副業やパートタイムという形でCxOに関わるという選択肢が重要になってきます」

CxO採用の新しい形 CxO-pass 副業としてCxO業務を担うことは本当に可能なのか?

 スタートアップ企業において、最初からフルタイムでCxOを採用するのはハードルが高いのが現実です。

「どうしても人が欲しいからとすがる思いで、『フルタイムでできます』という人を雇ったとしても、その人が本当にその会社を成長させるベストの経営者かって言われたら、そうじゃない確率の方が高い。そのあげく資本政策で失敗したり、のちのちトラブルが起きることもままあります。そういうネガティブなことが続くと、いい技術があっても投資家もつかないし、事業がうまくいかないんです」(小原氏)

こうした場面で、経験豊富な高い専門性を持つ人材が、副業という形で関わることで、企業にとって大きな利点となる。小原氏はそう話します。

小原氏はさらに、スキマバイトサービス「タイミー」の例を挙げ、元アクセンチュアの川島諒一氏が3ヶ月の業務委託を経て正式にCxOに採用されたケースを紹介しました。

このように、CxOポジションを副業からスタートすることで、スタートアップ企業と候補者双方にとってリスクを軽減できます。
副業としてCxOを務めるスタイルは、今後も新しい働き方の一つとして注目を集めるでしょう。

アクシスコンサルティングとStart-Passは、この流れを支援するために2024年9月から「CxO-pass」というマッチングサービスを開始します。このサービスでは、スタートアップ企業の10%が登録するデータベースと、現役コンサルタントの4分の1が利用するデータベースを活用し、副業からCxOとしてのキャリアをスタートできる仕組みを提供しています。

始まって半年が経過していますが、次のような意見が寄せられています。
『副業での小遣い稼ぎが目的ではなく、スタートアップに真剣に関わりたいと思っている方々に多く出会えることができた』(CxO人材側)

『面接だけでは見極めがなかなか難しいが、実際のパフォーマンスを通じてバリューを発揮できるかをしっかりと見極めた上で、CxOとして迎え入れることができた』(スタートアップ側)

CxO人材と企業が、同じビジョンを持ち共に成長できるかが、極めて重要なポイントであることがわかります。

また年齢についても伊藤氏はこう話します。
「CxOの年齢層は通常50代が多いですが、CxO-passでは30代の人材も多く登録しているのが特徴です」

EDiX Professional Groupの江戸川氏は、CxOの若い人材の重要性を指摘しました。

「アメリカのようなスタートアップ企業の心筋代謝が大きい社会の場合、同じ人材が何回もCxOを経験している。それに比べて日本はCX人材が1回スタートアップにチャレンジして、そのあとはその会社にずっと長く勤める。上場後もずっとそこに在籍し続けるので、何回も経験する人っていうのは非常に少ないのが現状です。若い人がより多くのCxOを経験することが大切です。CxO経験者を育成してスキルアップしていかないと、日本のスタートアップ市場は成長しません」

スタートアップ企業が特に多いアメリカの例について語る江戸川氏(右)

最後に小原氏CxO-passの重要性について話しました。

「チームだけではなく自分自身も磨かれる熱い体験ができるということがスタートアップ経営の特徴。この体験を楽しめるCxO人材をたくさん生むためには、まず入口に立っていただく機会をもつことはとても重要です」

スタートアップ育成の鍵を握るCxO人材。CxO-Passを活用し、副業から始める新しい働き方が、スタートアップの未来を切り拓く可能性を秘めています。

CxO人材が切り拓くスタートアップの未来

日本のスタートアップ市場は今まさに成長の過渡期にあり、企業の成長を支えるCxO人材の確保が鍵となっています。副業からCxOをスタートする「CxO-Pass」のような新たな仕組みは、企業と人材双方にとって大きなメリットをもたらすでしょう。

これからの時代、CxOというキャリアは単なる役職ではなく、企業と共に成長し、社会にインパクトを与える「挑戦の場」となっていくはずです。今後、こうした動きが加速し、日本のスタートアップ市場がさらに発展することを期待したいと思います。

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