
デジタル技術の進化によって、私たちの働き方は大きく変わっています。しかし、その変化の波はすべての人に平等に届いているでしょうか。特に、障害のある人が働く環境は、まだまだ課題が多いのが現状です。働きたいと思っても、そもそも仕事の選択肢が限られていたり、職場でのコミュニケーションに壁を感じたりすることが少なくありません。
こうした状況を変えようと、NPO法人フローレンスはDX(デジタルトランスフォーメーション)を活用し、障害のあるスタッフが能力を発揮しやすい職場環境を整えてきました。デジタルツールの導入やテレワークの活用により、一人ひとりが持つ「得意」を生かしながら活躍できる仕組みを作り上げています。その取り組みが評価され、フローレンスは「JAPAN HR DX AWARDS FINAL」において「優秀賞」を受賞しました。
では、フローレンスはどのようにDXを活用し、障害のある人が働きやすい環境を作り上げたのでしょうか。その具体的な取り組みを見ていきます。
DXで障害のある人の可能性を広げるフローレンスの挑戦

デジタル技術の発展は、私たちの働き方を大きく変えてきました。リモートワークの普及や業務の自動化が進む中で、多くの企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を活用し、より効率的で柔軟な職場環境を整えています。しかし、その変化がすべての人に平等に行き渡っているかというと、そうとは言えません。特に、障害のある人にとっては、いまだに多くのハードルが残されています。
この現状を変えるために、NPO法人フローレンスはDXを積極的に導入し、障害のあるスタッフが活躍できる環境を整える取り組みを続けてきました。同団体は、単に障害者雇用の枠を広げるのではなく、「一人ひとりが持つ能力を最大限に発揮できる環境を作る」ことを目指し、テクノロジーを駆使して職場のあり方を根本から見直してきました。その結果、デジタルツールを活用した業務の最適化や、テレワークの推進により、障害のある人でも自分に合った仕事を見つけ、持続的に働ける仕組みが構築されました。
こうした取り組みが高く評価され、フローレンスは「JAPAN HR DX AWARDS FINAL」において「優秀賞」を受賞しました。これは、単なる雇用創出ではなく、DXによって「多様な人材が活躍できる社会」を実現する新たなモデルとして認められた結果と言えるでしょう。障害のある人の可能性を広げるためにDXを活用するフローレンスの挑戦は、今後の働き方を考える上でも、大きな示唆を与えてくれます。
デジタルの力で3つの課題を解決 フローレンスの7年
障害のある人が働くうえで直面する課題は決して少なくありません。たとえば、働きたいと思っても「そもそも仕事が見つからない」、やっと仕事に就けても「自分に合った業務を選ぶのが難しい」、さらに「職場でのコミュニケーションに困難を感じる」といった問題が重なり、多くの人が希望する働き方を実現できずにいます。
フローレンスは、このような課題を解決するためにDXを活用し、障害のあるスタッフが継続的に働ける環境づくりを進めてきました。その結果、業務の選択肢が広がり、スタッフそれぞれが持つ特性やスキルを生かしやすい仕組みが整えられています。
では、フローレンスがどのようにデジタル技術を駆使し、働きにくさの壁を取り払ってきたのか。その取り組みを、3つの大きな課題に分けて紹介していきます。
担当できる仕事がない—「kintone」アプリの活用でDXが生み出した新たな役割


障害のある人の雇用を進めるうえで、「担当できる仕事がない」という課題は大きな壁になります。フローレンスも、多くの事業を運営するなかで、障害のあるスタッフが担える業務の確保が課題となっていました。特に、保育園ではお子さんの安全が最優先されるため、事務作業が後回しになりがちで、業務が滞ることもありました。
この問題を解決するために導入されたのが、業務管理アプリ「kintone」です。各事業で溜まっていた経理処理や書類作成、封入・郵送作業などを可視化し、オペレーションズチームが分担して請け負う仕組みを構築。これにより、業務の停滞を防ぎ、障害のあるスタッフが「社内請負人」として活躍できる環境が整いました。
年間5,200時間の業務を創出し、組織全体が効率化
「kintone」の活用により、年間5,200時間分の業務がオペレーションズチームに割り振られたことで、保育スタッフは本来の業務に集中できるようになりました。管理職の残業や経理の手戻り作業も削減され、さらに組織全体の業務効率が向上しました。
得意を生かせる仕事が選べない—「Teachme Biz」による完全マニュアル化で業務の幅を拡大

障害のあるスタッフは「得意」と「苦手」の差が大きく、業務の選択肢が限られがちです。例えば、整理整頓が苦手なスタッフがファイリング作業を続けると、業務が負担になり、本来の能力を発揮できなくなってしまいます。
そこでフローレンスは、**業務マニュアル作成ツール「Teachme Biz」**を導入し、業務を誰でもこなせるように完全マニュアル化しました。マニュアルは画像付きで分かりやすく整理され、余計な情報を省いたシンプルな構成にすることで、直感的に業務を進められる仕組みを整備。これにより、適性に関係なく多くの業務をスムーズにこなせる環境が実現しました。
約3,000件の業務をマニュアル化 依頼数は年間100件超え
Teachme Bizの活用により、現在約3,000種類の業務がマニュアル化され、オペレーションズチームの業務範囲が拡大。2025年2月時点で定常業務は81件、単発業務の依頼は年間100件超と、依頼件数も増加しています。
また、経理申請ミスの削減にも貢献し、これまで修正作業に追われていた経理チームの業務負担が軽減。仕事の属人化を防ぎ、誰でも対応できる業務へと進化したことで、組織全体の効率化が進んでいます。
次に、職場での「コミュニケーションの壁」に対し、DXがどのような解決策をもたらしたのかを紹介します。
コミュニケーションが難しい—「Chatwork」で生まれた交流の場

障害のあるスタッフの中には、人とのコミュニケーションが苦手だったり、業務上の会話に過度な緊張を感じたりする人もいます。こうした状況が続くと、業務に必要なやりとりが負担になり、仕事のしづらさにつながることもあります。
この問題を解決するきっかけとなったのが、**「会話」と「遊び」の要素を取り入れたコミュニケーションの場でした。フローレンスでは社内の業務用チャットとして「Chatwork」**を導入。業務の連絡だけでなく、趣味の話を自由にできるグループチャットの作成もOKというルールを設けました。
これにより、「推し活」スレッドではアイドル好きのメンバーが集まり、ランチタイムには動画鑑賞会を開くほどの盛り上がりを見せるなど、自然な交流の場が生まれました。サッカー好き、子どもの教育相談、「西武線沿線住人」など、さまざまなテーマのグループが存在し、業務外の会話を通じてスタッフ同士の距離が縮まっています。
緊張とストレスを軽減 離職者ゼロを実現
Chatworkを活用した業務外の趣味交流は、オペレーションズチームのメンバーにとっても大きなメリットをもたらしました。業務を依頼する人・される人の間に「フラットな関係性」が生まれ、仕事でのコミュニケーションもスムーズに。結果として、過度な緊張やストレスが軽減され、オペレーションズチームでは7年間離職者ゼロという成果につながりました。
仕事を円滑に進めるためには、業務上のやり取りだけでなく、気軽に話せる場があることも重要です。フローレンスのDXによるコミュニケーション改革は、仕事のしやすさだけでなく、働き続けやすい環境づくりにも大きく貢献しています。
DXが生み出す多様な働き方の可能性
フローレンスの取り組みは、単なる障害者雇用の促進ではなく、DXを活用して「誰もが働きやすい環境をつくる」ことに成功した事例といえます。業務の可視化、適性に応じた業務の最適化、そしてコミュニケーションの壁をなくす工夫を通じて、障害のあるスタッフが安心して働き続けられる職場を実現しました。
このような取り組みは、フローレンスだけでなく、他の企業や団体にも応用可能なモデルとなるはずです。DXを活用することで、従来の雇用の枠にとらわれず、多様な人材がそれぞれの強みを活かして活躍できる社会の実現につながります。
今後、企業がDXを推進する際、「効率化」だけでなく「インクルーシブな働き方の実現」に目を向けることが重要になっていくでしょう。フローレンスの事例が、その一つの指針となることを期待したいです。
認定NPO法人フローレンスについて

「こどもたちのために、日本を変える」。
フローレンスは日本のこども・子育て領域に関わる課題解決と価値創造に取り組む、国内最大規模の認定NPO法人です。
日本初の共済型・訪問型病児保育事業で2004年に設立し、こどもの虐待、こどもの貧困、障害児家庭の支援不足、親子の孤立の課題を解決するため、多様な保育事業を運営するほか、全国で「こども宅食」「おやこよりそいチャット」「にんしん相談」「赤ちゃん縁組」などの福祉事業と支援活動、政策提言を行っています。
コーポレートサイト:https://florence.or.jp/