
VR技術が進化する中、視覚や聴覚、身体の不自由さを仮想空間で再現し、障害を持つ人々の世界を体験できるコンテンツが注目されています。たとえば、失明体験を再現するプロジェクトや、難聴者の視点で音を捉えるVR体験が話題を集めました。こうした取り組みは、身体障害への理解を深め、共感を呼び起こすだけでなく、教育現場や福祉分野での活用も期待されています。
2025年1月11日(土)から1月26日(土)まで、東京銀座資生堂ギャラリーで開催される『美を疑え-資生堂クリエイティブ展-』では、学習障害の一種である「ディスレクシア」に悩む小学生の日常をVRで体験できるコンテンツ『もしもディスレクシアの小学生なら』が展示されます。このコンテンツは、読み書きが困難なディスレクシア特有の世界を再現し、体験者がその困難さをリアルに感じられる内容となっています。
この展示を通じて、私たちの「当たり前」を見直す新たな視点を得る機会が広がります。
読み書き障害「ディスレクシア」を体験するVRコンテンツ

『もしもディスレクシアの小学生なら』は、ディスレクシアに悩む小学生の日常をVRで再現する革新的なコンテンツです。ディスレクシアとは、学習障害の一種で、特に文字の読み書きが困難になる症状を指します。日本国内では7~8%の人々が該当するとされていますが、その実態が十分に知られていないのが現状です。今回のVRコンテンツでは、ディスレクシア特有の症状を2つ取り上げ、体験者がその困難さを「目で見て、耳で聞いて」感じられる設計となっています。
企画・制作を担当したビービーメディア株式会社は、「ディスレクシアへの理解を深めることで、より人と人が共感し合える社会を目指す」という資生堂クリエイティブチームの想いを体現しました。
没入感を高める設計と表現の工夫

このVR体験の特徴は、小学生の視点や感情の変化を追体験できる点にあります。例えば、学校の教室を再現した仮想空間で、文字が歪んで見える視覚表現や、周囲の生徒たちからのヒソヒソ声など、ディスレクシアが抱える孤独感や焦りをリアルに体感できます。さらに、VRゴーグルを装着してから現実空間から仮想空間へシームレスに移行する仕組みを採用。これにより、初心者でも簡単に操作できる親しみやすいデザインになっています。
体験者は、自分がディスレクシアの子どもになったような感覚を覚え、その日常の大変さを深く理解することができます。この没入感のある演出は、技術だけでなく体験デザインの工夫の賜物といえるでしょう。
「美」を問い直す挑戦『美を疑え-資生堂クリエイティブ展-』

このVRコンテンツは、『美を疑え-資生堂クリエイティブ展-』の一部として展示されます。同展覧会は、「美とは何か」という普遍的な問いをテーマに、形やバランスといった表面的な美だけでなく、考え方や人間同士のつながりといった新しい「美」の概念を提案しています。ディスレクシアの体験を通して、私たちは普段見過ごしている他者の視点を見つめ直し、それもまた「美」として捉える感性を養うことができるかもしれません。
『 美を疑え-資生堂クリエイティブ展-』
主催:資生堂クリエイティブ株式会社
協力:株式会社資生堂
会場:資生堂ギャラリー
〒104-0061 東京都中央区銀座 8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
会期:2025年1月11日(土)~1月26日(日)
火~土 11:00~19:00 日・祝 11:00~18:00 毎週月曜休 (月曜日が祝日にあたる場合も休館)
入場無料
特設サイト : https://www.shiseidocreative.com/beauty-beyond
ディスレクシア体験から始まる“理解の連鎖”
この記事を執筆しながら感じたのは、VR技術の可能性の広さです。単なるエンターテインメントを超え、教育や社会課題の解決にまで活用されるその姿は、まさに未来を感じさせるものでした。特に、ディスレクシアの子どもたちが日々直面する困難を「自分ごと」として体験できる機会を提供することで、周囲の理解を深め、より良い環境づくりへの第一歩となるのではないでしょうか。
今回の展示をきっかけに、ディスレクシアだけでなく、他の障害や社会的課題に対しても新しい視点を得られる人が増えることを期待しています。「理解」とは、相手の立場を想像する力から生まれるもの。このVRコンテンツが、そんな力を育む手助けとなることを願っています。